2018-08-20

究極超人あ〜る、31年越しの10巻。懐かしくなんかないさ。

ようこそ。Scriptaをご覧いただきましてありがとうございます。
キサラギ@kisaragi_Virです。

自爆装置は男のロマンだぞ、きみ!
成原成行

野球に旅行に文化祭、そして写真撮影と暗室現像。昭和の高校生の学生生活をユニークに描いた漫画がかつてありました。他の作品と一線を画すことはただひとつ。主人公がそれほど賢くはない、だけど愛すべきアンドロイドだったということ。

さて。こんな書き出しではございますが、僕が大好きな漫画としてあげることがあるとすれば、その中のひとつに今回紹介する「究極超人あ〜る」を外すことはありません。一般には「機動警察パトレイバー」「鉄腕バーディ」などで有名なゆうきまさみ先生が1985年から執筆していた作品で、連載期間こそ他の作品に比べて短いものの強烈なインパクトを残した名作だと思います。

そんな究極超人あ〜る。先日、31年ぶりに新刊の10巻が発行されるという嬉しいニュースがありました。もちろん9巻でおはなしとしては完結をしてはいるのですが、近年になって後日談が断片的に雑誌スピリッツで掲載されていたんです。そして話数も増えてきたこともあり、驚きの30年越しの新刊発行となっています。

ゆうきまさみ先生の作品の中でも僕がこれを押すのはその「ゆるさ」にあります。いわゆる「日常モノ」と呼ばれるジャンルの草分け的存在で、特に大きなストーリー展開も、感動に涙するシーンもなくただただ高校生の日常を描き切っていることが特徴的なのです。

そして、それが30年経ってもいまだに面白いと思えるのが強烈な個性のキャラクターの多さ。まずもって主人公のR・田中一郎が壊れかけたアンドロイドで元々は世界征服を目論む成原博士によって発明されたものの、この成原博士自体がトンデモ博士なのでまともな発明品など到底できないのです。

ロボットのくせに(ロボット、って呼ぶと怒る。)記憶力が皆無、計算能力も人並みレベル、基本的に壊れているので手荒に扱われて壊滅的に壊れることもしばしばあるのですが、そこに全く悲壮感がない。あっけらかん、とはまさに彼のためにある言葉。

それがひょんなことから?(このあたりの流れは原作を読んでください。その荒唐無稽さを楽しむ作品なので。)春風高校の学生として青春の日々を謳歌する学生たちと起こす日常のハプニングを楽しむ作品です。



アンドロイドと僕との接点。

連載開始は1985年。この当時は学校を舞台にした漫画といえば割とスポ根モノが時代の主流になっていた時期で、文化部系の漫画は少なかったと聞きます。「光画部」と呼ばれるいわゆる写真部を舞台にして、一見地味な作風になりそうなものを奇想天外なアンドロイドが一体加わることでとんでもない方向に話が展開していくのが斬新だったのだと思います。

僕自身は連載当初から知っていたわけではなく、のちに単行本化されたものを読んで面白いと思ったクチなのでデビューとしては遅いのですけど、「写真を撮るって面白いこと」という気づきを貰えた作品だと考えています。それまでは写真を撮るっていうのは割と個人的な行動で、ひとり静かにフィルムを暗室で現像する、黙々とした作業の連続なのだとイメージしていました。

モノクロ写真の現像とプリント―モノクロ写真をより楽しむためのフィルム現像と引伸しプリントのすべて (シリーズ日本カメラ)

僕がもしも学生の頃に学校に「写真部」があったなら。彼らのように撮りたいものを撮り、ダメ出しされり褒めあったりする仲間がいたら。どれだけ楽しかったのかと夢想します。もちろん、大人になった今でもそういうことをすることには遅い、なんていうことはないのですが、学生生活の部活の記憶っていうものは自分にとっての青春の記録。特別なものですよね。

この作品はまさに読んだ人間の楽しかった学生生活を呼び起こすきっかけを与えてくれる漫画です。あの楽しかった夏休み、なんでもなかった日常がいかに貴重で有意義な時間だったのか。友人と語りあったこと、共に体験した記憶、そういったものを色鮮やかに思い出すことができなら。その時こそ、この作品を読んで良かったと思えるのではないかと思うのです。

人間万事塞翁が馬。

この漫画を読んでかどうかはわかりませんが、その後しばらくして写真店で仕事をする時代がありました。人生なんて何があるかわからないものです。だから僕もまた春風高校光画部の一味に振り回された一人なのかもしれません。
奇しくも常連さんのフィルムを現像してプリントしては旅の思い出を聞いたりしていた頃。働くこと以外の価値がそこにはありました。

連載が終わって30年が経ち時代は変わり、漫画の世界にしか出てこなかったロボットも次第に現実に現れるようになりました。二足歩行できるもの、会話ができるもの、人の姿に近づいていくもの。工業用ロボットではなく、人との生活に密着するロボットが街に現れるようになり、人との日常に溶け込んできた時代こそが現在でしょう。

写真も時代につれ進化をしています。いまではデジタルカメラが主流。高感度高画素のカメラが世に多く出回り、誰でも失敗することなく綺麗に思い出を残すことができる時代です。それでも僕が思っていたよりもまだ、フィルムカメラは廃れていませんでした。ケースからフィルムを取り出してカメラに装填する。27枚撮り終えるまでは何が写っているかわからないワクワク感を求めている人はまだまだいます。

どれだけ時間が経っても、写真を撮る楽しさ、ということは普遍的に残り続けています。きっとこの先もそうなんでしょう。フィルムカメラがデジタルカメラに代わり、さらにスマートフォンで撮影する時代の今こそ人と写真の繋がりがより深くなっているように感じます。

何を使って記録を残すのかは自由です。気軽にスマートフォンで撮影することも良いことですが、さらに良い作品を。雰囲気のある作品を。ということで最近はフィルムカメラ回帰の動きもあるようですね。「写ルンです」が再び人気になる昨今、いろいろな人がいろいろな写真体験できるいい時代に生きているなあ、と実感しています。

もしかしたら。というかきっと近い将来、学校や家庭に学生と触れ合うことのできるロボットが現れる世の中になるのだと思います。学習用なのか生活環境サポートなのか。役割は何かとあるでしょうが、それが当たり前の時代が目の前まできているはずです。だからこそ僕はこんなことを夢見てしまいます。その時、その世界のどこか片隅で愛すべき究極超人、あ〜る君が動いていないかなあ。と。

フィルムカメラも金属バットも炊飯器もロボットも。全部あるけど彼<アンドロイド>だけが足りない。昭和の漫画の回想を平成最後に夏にすることになるとは予想だにしませんでした。でも、新しく発行された10巻のページをめくるとそこはもう1987年。彼らはまだそこで生き生きと動いていました。

なんかもう、他に言葉はなくただ一言。「ただいま。」感想はこれだけで充分です。

9回裏、同点のため延長戦

余談ではありますが、スピリッツに連載された最新の読み切りにはおまけがついておりました。ちょっとしたコスプレ写真のページがついておりまして、関ジャニ∞の横山裕さんがそれは見事に主人公のR・田中一郎に扮した姿に吹き出してしまいました。まさかこんなかたちで実写化されたアンドロイドを見る日が来るとはね…。なんかね、もう彼で短編作品を一本撮ってください。お願いします。

本来、この記事での僕の感想はここまでです。ですが、この下にも長く長く文章が続いています。実はこれを書くために振り返ったこと、主要なキャラクターの特徴を箇条書きにしていたら結構な文章量になりました。如何せん30年前の作品。僕が何のことを言っているのかわからない方も多いと思うので、wiki的な感じにして残して置くことにしました。

当時使われていた名言などもおさえてありますので興味のある方はチラリと読んで見ると良いかも。一言一句正確じゃあないかもしれませんが、これもまた僕の楽しかった記憶ですのでご容赦を。

春風高校 光画部 部員録

R・田中一郎:あーる たなか いちろう
世界征服のために作られた究極のアンドロイドの成れの果て。

「ごはんが食べられないと、おなかがすくじゃないか。」
「埼玉県の地図があれば日本中どこへいっても安心です。」

高校生の制服を着た人型アンドロイド。機械のくせに計算するときは指をおらないとできない。エネルギー源は白米でそれ以外を食べると壊れるデリケートなんだか美食家なんだかよくわからない仕様。基本的に人畜無害だけど常識がないので自転車で高速道路を爆走する、自作のカメラはなぜかレーザー光線でピントが合うので被写体が必ず炎上する、幽霊の姿をサーチして追い回すなど、非常識の限りを尽くす光画部のジョーカー的存在。

基本的に何本かネジが外れているので壊れているのが日常。何回か修理に出されて帰ってくると一時的に本来のスペックを発揮して優秀な言動ができることがあるんだけど、大体の場合短い時間で損傷するので長続きはしない。1987年時点で謎の高校4年生になっており、今だに卒業の目処はつかず。

世界征服については全く理解できておらず、成原博士から与えられた指令である、国のトップに立つための「東大を目指せ」を光画部員たちにいいように取られて「とうだいを目指す」「灯台を目指す」ことになりただの撮影旅行に出かけることで有耶無耶になったりして何一つうまくいった試しなし。

光画部の偏屈なる先輩

鳥坂先輩:とさか せんぱい
部長にして自称、歴代最強のOB。

「まーかせて!」「だーいじょうぶ!」
「人間負けてしまったら負けだぞ!」
「定められた時間に前後2時間ずつのはばをとる光画部時間は世間の常識だぞ。」

そのR・田中一郎が学校で参加するクラブ活動が「光画部」と呼ばれる写真部。基本的な活動内容が野球(意味もなく野球部と戦う)部室を確保するため学校内でゲリラ活動(綱紀粛正する生徒会と戦う)思い立ったら撮影旅行(行き先で歴代の光画部OBと戦う)といった何かにつけて濃いメンツと抗争を繰り広げることが多いのですが、その中心人物となるのは常に鳥坂先輩、という生まれたってのトラブルメーカー。

「平地に乱を起こす」を地で行く彼が一枚嚙むだけでなんでもないことが大乱闘に発展するのは毎回必見な展開なのですが、写真に対する愛も深く常にNikon F3(この当時にしては相当な高級機)が使えるようにスタンバイされていたりします。コミック8巻ではこの鳥坂先輩と、よく出入りするOBのたわば先輩の二人による撮影講座みたいなものがあったのですが、これが秀逸でした。ますは鳥坂先輩から。

「フィルムはトライXで万全。これを4号か5号で焼いてこそ味がでる」

トライXはコダックが販売していたISO400の(当時にしては)高感度フィルム。特長は暗い場所には強いけど粒状性が荒いので引き伸ばしには向かないもの。それを硬調(中間色の発色は出にくいがコントラストは強い印画紙)に焼くのが正しい、と説いていますがまあ極論です。ガリッガリのエッジに白飛び黒つぶれ上等、という写真は確かにインパクトはありますが初心者に進める内容ではないと思います。

部長として破天荒の限りを尽くして卒業後は東京都職員に。公務員なのになぜか放課後の部活にOBとしてしばしば参加するという職場放棄なのか仕事ができるのか謎の行動力で物語に関わり続ける困ったお兄さんです。

たわば先輩:たわば せんぱい
歴代のOBを知る先駆者。野球と鉄道をこよなく愛する。

「粉砕バットは必需品だ!光画部の命だぞ!!」

連載開始の時点で既にOB、事あるごとに部室に顔をだす面倒見の良い先輩、というべきなのか暇人なのか。鳥坂先輩の行動をある程度、抑制できるという光画部にとっては貴重な存在。とはいえ光画部=問題児の集まり、のレッテルを貼られているのはこの人たちも暴虐の限りを尽くしたからなのでそれほど褒められた先輩でもないけど。得意分野は「撮り鉄」真冬の鉄道撮影で雪に飲まれる。

たわば先輩のお言葉は現在は解説しないと伝わらないのでちょっと長くなります。

「逆光は勝利」

一般に写真撮影においては撮影者の後ろに光源がある「順光」で写真を撮ることがセオリーではありますが、その逆で撮影することが勝利とはどういうことでしょう。被写体をより強烈に印象付けたい時に使うのならば効果的な範囲内では有効ということ。ただし当然、黒つぶれする可能性が高いですからレフ板持ちじゃないと失敗しやすい技法ですね。

「世はなべて3分の1」

これは常識なのです。写真を撮影する際の構図を決める時に水平線と垂直線を均等に2本入れ、画面を9分割にするイメージで被写体を配置していく考え方は写真や絵画を作っていく際のごく基本的な考え方。線の交差する4箇所に被写体を置くことにより構図が綺麗になるのですが、他の言葉が怪しいのでこれも怪しく思われている残念な例です。

「ピーカン不許可」

まず「ピーカン」は映画用語から。快晴を意味する言葉なので言い換えれば「快晴は不許可」晴れていれば写真は撮りやすいと思われがちですけど、人物なんかを撮影する時には影が強くなりすぎて意外に撮りにくいものだったりします。この言葉自体は全くおかしくないのですが、先の「逆光は勝利」と言っている人間が言うからおかしいんです。

「頭上の余白は敵だ」

要は人物写真の頭上に余白を作るな、がっつり人物メインで撮れ、と説いているのです。他の言葉がみんな怪しいのでこれもおかしなノリの言葉と思われるようです。この言葉ばかりが一人歩きしているようなので補足するとたわば先輩は人物写真の説明とごっちゃになっていて、風景を撮りに来ているのに人物撮影のルールを混ぜてきているからややこしいんです。

一個一個は一理ある言葉なんだけど、玉石混淆に一気に語るからなんだかおかしな呪文になっている、計算されたカオスはいまでも語られることが多い名セリフとなっています。

言葉にして説明するとこれだけ長い文章(これでもざっくりとした説明ですが。)が必要なネタを数コマのセリフで片付けているあたりがなんとも潔いというかわかる人だけわかってくれ感がすごい回でした。

光画部を支える女傑

大戸島 さんご:おおとじま さんご
天真爛漫、物語の語り部的存在。

「3.3センチの虫にも、16.5ミリの魂打法!!」

あ〜る君と同じクラスの女子。一応はヒロイン。ラブコメにはならないけど。抜群の運動神経はスポーツ部からも引く手数多のアスリート枠。光画部においては暴走する先輩やOBの行動を止めるという非常に難しい役回りを担当することに。だいたいの場合は押し切られてお祭り騒ぎになるけどあ〜る君が再起不能にならないのは彼女の功績が大きいかも。

堀川 椎子:ほりかわ しいこ
光画部の策士にして副部長、貴重な常識人。

「犯罪者だァ!犯罪者の群れだァ!!」
「みんな~、ここに引き伸ばし機が捨ててある!」

光画部において数少ない、「まともな写真」を撮れる副部長。成績優秀、運動神経も良くとにかく頭が切れる。さんごが力ずくで行動するタイプだとすれば椎子は「参謀」として深慮遠謀な行動で光画部を支える存在。廃部の危機も生徒会を騙しぬいて切り抜ける、見た目に反して手段を選ばないあたりは流石に鳥坂先輩を相手にしていればこそ。

光画部の凡庸ならざる後輩

曲垣 剛:まがき ごう
光画部の会計。お花の写真が好き。ついでに豪速球を投げられる。

「あんたたちは息抜きの合間に人生やってんだろう!!」

180cmを超える長身で中学時代は野球部のエース。高校でも野球で活躍すると思いきやその才能を光画部に買われ(光画部は野球がうまい人間をなぜか求めているので)スカウトされる。9アウトまでに一点でも取られたら負け、という光画部ルールに乗っかったのが災いしたことと大戸島さんご、という運動神経の鬼に正攻法で討ち取られて写真の道へ。その後お花の写真に目覚める光画部の良心的存在。

兵頭 信:ひょうどう まこと
写真知識ゼロのサービスショット要員。

「キャラクターの多いマンガではありがちな事件であった!な!?」
「『な!?』じゃないだろーっ!!」

写真を撮らない光画部員。美少年にして自称「品性下劣」プロ?の女装家で露出癖あり。撮影会にトイカメラを持って参加するという非常識な行動で周囲の度肝を抜く荒技に出たりするけど、どちらかというと被写体として使われることが多い部員。幼馴染の曲垣を怪しい道に誑かすのが趣味の性格が倒錯したナルシスト。作者に描き忘れられた伝説を持つ。

西園寺 えりか:さいおんじ えりか
勘違いと非常識の天才。行動予測不能。

「馬肉もわさび園でとれるんですかぁ?」

光画部最大の敵である生徒会長、西園寺まりいの妹。あ〜る君に勘違いの一目惚れして入部するもその存在がいわば「生徒会に対する人質」となっていて光画部存続の陰ながら功績者だったりする。苛烈な性格の姉とは真逆の幼い行動は周囲も予想できないこともしばしば。また、破壊的な味覚から作られる料理は光画部を恐怖の底に叩き落とすトラウマに。

天野 小夜子:あまの さよこ
押し強くてひねくれ者で先天的に偉そう。鳥坂のあとを継ぐもの。

「はい、うらめしや。」

学校に住み着く幽霊、という型破りな登場をするツワモノ。生き霊が肉体に戻った後は春風高校生として通学することに。魂と身体のつながりが薄いため頻繁に幽体離脱する。鳥坂先輩の後を継ぎ部長になってからは持ち前の守銭奴魂で部の立て直しをすることに。歴代でもっともまともな光画部長との評判もあり。生徒会から多額の予算を奪ってくる凄腕ネゴシエイターでもある。

っていう具合に主要メンバーのことを書いていたらかなりのボリュームになってしまいましたが、まだまだ全然書けていないんですよね…。でも、これだけ読んで少しでも面白そうに思えたなら、書店に足を運んでみてはいかがかでしょうか。
ここに書いてあることの何倍も愉快な世界がそこにはありますから。

なんとなくこの記事はリライトして付け足していく予感はしてますけど…。とりあえずここまでっ!

よければまた観てくださいね。それではこのあたりで。

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ゆうき まさみ
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