2019-07-31

初夏の北千住。あてもなくフォトウォークをする休日にライカを。

ご覧いただきましてありがとうございます。
キサラギ@kisaragi_Virです。

I need plenty of rest in case tomorrow is a great day..
あすがすばらしい日だといけないから、うんと休息するのさ…  Snoopy

「北千住?」
「そう。北千住。千葉と東京の境目ね。」

柏にある居酒屋での会話である。人手が足りてない拠点への支援、という名目で僕は割とあちこちへと赴くことが最近多い。当然、忙しい場所を補強するために東北から関東まで出てくるので、それなりに客将扱いはして貰えるので立場は悪くはない。

僕の差し向かいには招き猫のような風体の男が、前足で顔を撫でるように額を掻きながら日本酒を飲み、福を招くような笑顔で美味そうに栄螺の刺身を口にしている。招き猫が言うにはそこはとても善い場所らしい。

支援先というのはなまじ余計なシガラミがないだけ働きやすい。雑事などは振られないので大事なところだけを集中的にやればよいのだ。おかげで頗る業績を上げることができたので慰労会の一つもやって頂けたりしていたのだ。

僕を含めて中核になっているおじさん達数人が仕事終わりにふらりと飲みに集まったわけである。なんでも、飲み歩きを趣味にしている同僚が贔屓にしている店らしく、入店の挨拶もほどほどに予約されていた席に着く。

柏は千葉の中では内陸。新鮮な海の幸、といえば銚子だったり館山だったりするのだろう。それでも物流が発展した現在ではここでも新鮮な魚介はそれなりに入ってくるらしく、大ぶりの牡蠣やら栄螺なども事前に伝えておけば食べられるそうだ。

牡蠣、というのは好き嫌いの出やすい食材だと思う。海のミルクなどともよく呼ばれている。濃厚な磯の風味を味わうものなのだろう。というのも僕はそれほど好んで食べる食材ではない。

「出された食事を残す」ことができない性分なので、黙っていて出てくればそれなりに食してシレッとした顔をしているのだが、どうにも美味いとは思えない。生でも焼いても鍋で煮てあっても一筋縄ではいかない食べ物である。味ではない。多分香りが受けつけないのだと思っている。

黙っていて大量に牡蠣が出てくると始末におえないので、予め牡蠣とホヤと栄螺は駄目だと伝えておいた。中でも栄螺は難易度が高い。身はまだしも肝は体が拒絶する。あれは旨味であるとか苦味であるものが舌から脳に伝わる前に危険であることを全身が察知するのだ。

「ここのは別モノだよ。一回騙されたと思って食べてみれば?」

ありがたいお誘いである。何も悪意などないし実際そうなのかもしれない。だが牡蠣はどこまでいっても牡蠣であるし海老は海老、蜻蛉は蜻蛉である。牡蠣が海老になったりなどはしないし、突然飛んだりしても困るので丁重にお断りする。

むしろ、この場合は美味しい反応を期待されるのが怖いのである。旬の良いモノを用意して頂いて食すからにはそれなりの笑顔と表現が必要だろう。それに応える自信がないのである。

それに、そこまで立派に育った牡蠣ならばやはり味のわかる人間が食べるべきだと思うのだ。嫌いな人がジェットコースターに乗る意味はなく、好きな人がその速度と落差を堪能すればいい。そういうレベルの話だと思う。

代わりに鯵のなめろうやら〆鯖などを食べたいと希望していたのでそちらを楽しみにしていた。「光り物」は薬味や下処理で味が大きく変わる食材だ。魚特有の臭みを取り除く日本の職人の技で、僕にとっても食べやすく米に合わせても酒に合わせても最高のアテになる。

魚介の新鮮さを謳うお店だけあって日本酒の品揃えもなかなかに豊かで、良い酒と美味い魚に舌鼓を打つ。宮城の「日高見」、福島の「写楽」、高知の「ジビエ」など有名どころから変わり種まで強かに飲み良く語った。

普段なら会話の渦に巻き込まれないように末席に陣取ってちびりちびりと酒を嗜むのだが、今回ばかりは主賓なので輪の中心に据えられる。若干、勝手が違うも歓迎されているだけにそれなりに立ち振る舞っていた。

そんな折にでてきた地名が北千住だ。正直、だいぶ飲んだ後に出てきたのでよく覚えてはいないが、前後によくある仕事の愚痴やらお国話などが渾然一体と混じり合ったなかでポン、と置かれた言葉である。

飲み歩くのに良い街だったか、住みやすい街だったか。啄木鳥が木に穴を開けるような感覚で鯵のなめろうを箸の先にちょいと付け、何杯目かの日高見を口に含む。生姜と味噌と鯵と日本酒が渾然一体となった旨味で舌が軽くなっていた時に出た会話は前後が茫洋として定かではない。

やがて〆に鯛の出汁茶漬けまでさらりと頂いて酒肴としては一丁上がり、という事になる。まるで竜宮城で鯛や平目の舞い踊りなど接待を受けた浦島太郎のような程で亀ならぬ終電間近の常磐線に揺られて帰ってきたわけだ。

翌朝。ふらりと起きたところで手元に玉手箱などは当然ありはしないのだが、何やら北千住だけが気になる。僕が写真を好むことは話題に上がっていたし、その流れで何かを話した記憶もある。中心だけが欠落していて、知らない街が代わりにそこにある。

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幸いにして、というか配慮いただいたのでこの日は休日であった。仮住まいのホテルにはカメラを持ち込んでいる。LEICA M6 TTL。フィルムカメラをメインに。一応GRⅢもポケットに忍ばせる。知らない街には知らないまま足を運ぶのも楽しいかもしれない。

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日差しが強そうな陽気なのでポロシャツにサマージャケット。あとは財布とカメラだけを持って最寄駅から「そこ」まで向かってみることにした。

さて。北千住である。足立区に属する謂わば「下町」の代名詞として知られる、そうだ。駅から降りた感じは思ったよりも小綺麗で開けた街のように思える。大学が近くにあり学生街のような印象もある。

東京の街並みというものは目まぐるしい勢いで変わっているのだろう。駅前の広場は近代的なビルが建ち綺麗に整備されているのだが、少し歩くと昔ながらの商店街、といった味わいのある街並みが顔を現す。

もとより大した目的などない。それでもフラフラと何気なく歩いていた道が元の日光街道らしい。なるほど。宿場町の名残なのだ。人が住みやすいように駅前から次第に近代化しているのだろう。あと10年もすると見られなくなる光景なのかもしれない。

しばらく歩いてみてわかったことはどうやら昔ながらの歓楽街である、といったところか。大きなランドマークとなるものは特に見当たらないが昔ながらの居酒屋であったり青果店、理髪店などがまだ街の機能として生きている。

フィルムカメラの似合う街だ。デジタルで綺麗に解像された撮り方も悪くないとは思うが、少し寝ぼけた淡さのある絵の方が好感が持てる。使っているフィルムはLomographyの感度400。普段はだいたいこれで間に合うし、最近は結構どこでも手に入る。

氷川神社を詣で、荒川まで出る。途中で看板に出ていた「虹の広場」という場所まで歩いてみた。まあ、野ッ原である。どこまでも河川敷だ。僕がちゃんと調べてないのが悪いのだが、チューリップの時期に良い場所らしい。

もとより計画など立てて歩いているわけでもないのでベンチでウトウトと午睡をする。遠目に荒川を渡る常磐線やつくばエクスプレスが鉄橋を渡るのを観ていたが、実にひっきりなしに往復するものだ。時刻表で見るよりも忙しく動いているように感じる。

高架橋を潜り街を西から東に。こちら側は住宅地ど真ん中である。大体の方向感覚で歩いているとやがて東口側の商店街へ。こちらは高い建物の少ない開放的な街並みだ。「学園通り」の看板は結構年季が入っている。

東京電機大学の大きなキャンパスがある。実に近代的な建物で、ここだけ浮いているように見えるのだがこれもまた開発の一端なのか。やがてここにもフランチャイズの出店が続くようになり、古い商店街は姿を消していくのだろう。

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ぐるりと一周、駅周辺を回ったあたりで切り上げとしたのだが「消えゆく下町」なのかもしれないと感じた。勿論、住む人があっての街なので常に必要に応じたアップデートがされていくのがあるべき姿なのかもしれない。

それでも「街としての個性」と「住みやすさ」は両立するわけではない。必ずしも便利ではないにしても、昔ながらの商店街を今日まで維持し続けた街の方々の努力は素晴らしいものがあると思う。

牡蠣は一度根付くと、一生の間ずっと海水からプランクトンを摂取する。その際に大量の海水を取り込むために結果として海水を濾過する効果が高いという。古くから続く商店街が今の新しい街作りの土台となってきたように。

また何かの機会があれば、ここを訪れることがあるのかもしれない。でも、その時はきっと違う顔をした北千住になっているのだろう。肯定も否定もしない。街は人が望むように進化していくものだ。

使用機材 / LEICA M6 TTL(Summicron 35mm F2 ASPH),RiCOH GRⅢ

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